17 April 2007

拡散するポルトガルの建築

リスボンは随分暖かくなってきた。春を通り過ぎて、初夏の感さえある。夕方午後8時、事務所を出ると空はまだ明るく、日中十分に陽射しを受けた通りは、まだ真夏程ではないにしろ、熱気を漂わせている。帰りにビールを飲みに寄ったサンタ・カタリーナの展望台では、週末、既にビーチで肌を焼いてきた人々で賑わっている。事務所の休暇スケジュール表にはもうかなりの人が予定を書き込んでいるけれど、夏のヴァカンスへ向けてリスボンの街全体が早くも助走を開始したようだ。来月末にはリスボン建築トリエンナーレが始まるけれど、その頃にはもっともっと夏らしくなっているだろう。

そのトリエンナーレのウェブサイトも、開幕へ向けて充実してきているけれど、数ある展覧会の中で僕が注目しているのは、「ポルトガルの展示」だ。「各国の展示」とは別枠で設けられている「ポルトガルの展示」では、「拡散するポルトガルの建築」というタイトルで、<神話>としてのエスタード・ノヴォ、植民地政策、1974年の革命、革命後の時代から、<現実>としてのEU加盟、シェンゲン協定、9.11、EU憲法の危機に至るまでの拡大、拡散していくポルトガルのアイデンティティを背景として、近代、現代のポルトガルの建築を見渡そうという展示だ。

最近、建築メディアでは、スペインの『Arquitectura Viva』、日本の『a+u』がそれぞれ今月号で、イタリアのインターネット上の建築メディア『europaconcorsi』でも同時期にポルトガルの建築をフィーチャーし、ちょっとしたポルトガル・ブームだ。『a+u』が日本人にとってポルトガルらしいと思われる建築を順に並べ、拡散する予感を漂わせたのに対し、隣国スペインの『Arquitectura Viva』ではすでに拡散された状態がそこに示された(無論、投稿制のインターネットメディア『europaconcorsi』ではさらにそれが進んでいる)。

でも実際のところ、外国人からすると、ポルトガルの建築は、彼らが言う程多様化しているようには見えない。『a+u』のように、それとなく、ポルトガルらしさを表現する誌面を作ることもできる。結局、これはポルトガル人の手によって、丁寧に解説されなければならない。この「ポルトガルの展示」がポルトガル建築の奥行きのようなものを見せてくれるのではないか、と僕は期待している。