「窓男」は両手を振って事務所内を移動する。窓男は現地では"セニョール・デ・ヴァオン"と呼ばれている。窓男は窓のディテールが得意で、詳細図を作成するのが仕事だ。100分の1の図面を20分の1に拡大して線を描き込み、それをさらに原寸大にして、また必要な線を書き込む。それにハッチを加えて完成だ。
この一見シンプルな作業はとても複雑で、度々困難を極める。そういうとき窓男はくちびるをブルルルルと鳴らして事務所内を移動していく。両手を大きく振りながら。
「窓男はポルトの出身なの。だからあんなぶっきらぼうな性格なのよ。」
こっそりと同僚が教えてくれたのだが、僕も窓男とは何度かいっしょに仕事をしているのでそれくらいのことは分かっている。話始める時、一瞬あごをしゃくるのが窓男の癖であり、それがぶっきらぼうという印象を与えている。詳細図なんていう細かいことを気にしているくせに、その性格は正反対である。態度は大きいくせに、体格は小柄である。
窓男もサッカーをする。サッカーをやっている最中、窓男の頭の中では何が起きているのだろう、窓男はニコニコニコニコと笑っている。シュートをはずしても、仲間がミスをしても、窓男はニコニコと笑っている。率先してゴールキーパーをやったりして他人思いの一面も見せる。前を見ずにドリブルしていく姿には愛嬌すらある。
窓男にはそういう二面性がある。窓男の窓は時々外に向かって開かれるのだ。