22 January 2006

アートの力

昨日、出勤前に『O PODER DA ARTE -Serralves na Assembleia da Republica-』という展覧会に行ってきた。ポルトにあるセラルベス美術館(Museu Serralves)のコレクションを、リスボンにある国会議事堂で展示しようという試みだ。セラルベス美術館はポルトガルの現代美術をリードする存在で、シザ・ヴィエイラ設計の建物とともに国外でも名の知れた美術館であると言えるだろう。

そのコレクションを国会議事堂というアートとは無関係な(少なくとも一般市民にはそう感じられる)場所で公開している。キャッチフレーズは、『O PODER DA ARTE』、アートの力。その言葉に半信半疑になりながらも、国会議事堂が事務所から近いということもあって訪れてみることにした。

国会議事堂は平日、昼食に通うリスボン大学経済学部の学生食堂の近くにある。そのため日頃から見慣れている建物ではあるが、これは威風堂々、豪華壮麗な立派な建築物である。サン・ベントというリスボンの中では居住環境の良い地区にあるのだが、この国会議事堂がその雰囲気作りに一役買っていると言えるだろう。

さて、建物に入ろうと思ったのだが、真っ白な入り口正面の大階段、護衛の兵士などにちょっと怯んでしまう。正面切って、兵士の脇を通り過ぎて「突入」してもいいものか。護衛の兵士に聞くのも何だか気が引ける。そう思っていると、正面入り口からパラパラと人が出てくる。それで、ああ、ここから入っていいんだなと思い、入り口の方へ進む。入り口で手荷物検査を受け、国会議事堂内部に無事入ることができた。ああ、なるほどなと思う。確かに普段は一般の人々が入ろうとしない、いわば日常的ではない空間に、展覧会という名目で入ることができる。いつも外から見て、立派だな、と思っていたその建物に入ることができる。そう思った途端、何だか僕はワクワクしてきた。

見学は国会議事堂という場所柄、ガイド付きで見て回ることになる。1時間に1回のペースで行っている。説明はポルトガル語のみだが、建物内は声が反響するという理由でトランシーバーが貸し出され、それを耳にあてて聞くため僕のポルトガル語レベルでも何とか聞き取ることができる。歴代の大統領の胸像が飾られた部屋、大階段のある吹き抜け、テレビでもお馴染みの新聞記者が突撃インタビューする廊下、図書室の待合室、と、国会議事堂内の様々な場所にセラルベスのコレクションが展示されている。おもしろいのは、その見学ツアー一行に、美術鑑賞よりも国会議事堂に入りたかった、というようなお婆ちゃんたちが多数いたことである。

「あたしには、アートとかよう分からんたい。」
「ばってん、ばあちゃん、国会議事堂の中ば見てみとうなかか?」
「ほんなら行ってみようか。」

そんなやりとりが想像される。そしてツアーが終わった頃には、お婆ちゃん達も一端の芸術評論家になっているのかもしれない。

「ガラスっちゅうのはね、きれいかばってん、一方ではかなかもんやろうが。それは危険、あぶなかっちゅうことでもあるとよ。」

と、今までは暇そうに窓から通りを眺めていた彼女らが、通りを行く人をつかまえて話しかける。そんなことが起きる、かもしれない。そういう可能性、潜在能力を含めて「力」ということができるだろうから、展覧会の場所と合わせて見て、そのシンプルなキャッチフレーズには共感を持てた。

あと、ガイド付きの方が実はじっくり作品を味わえているような気がしたのも僕には発見だった。会期は2006年1月12日から4月16日まで。少なくともリスボン、ポルトガル在住者には行く価値あり。無料。(詳細は、http://www.serralves.pt/