25 May 2009

SAAL


ジョアン・ディアスによるドキュメンタリー『As Operações SAAL』を見に行く。SAALは、「Servico de Ambulatorio de Apoio Local(地域支援相談局)」の略で、1974年の革命後の劣悪な住宅供給事情の改善を目的に設立された団体である。ドキュメンタリーでは、SAALプロジェクトに関わった建築家、住民などへのインタビューとともに、当時の新聞記事などを通して、革命直後のポルトガルの社会状況を浮かび上がらせることを試みている。元々、この作品は、2007年のリスボン建築トリエンナーレの際に公開されたが、今月、期間限定でシネマシティ・アルヴァラーデの一館のみで再公開されている。僕は2007年に見逃していたので、今回は何とか時間を作って見に行こうと思っていたものだ。

ヌノ・ポルタス、シザ・ヴィエイラ、ソウト・デ・モウラなどをはじめ、多数の建築家、SAALの当時の代表者、アシスタント、そしてSAALプロジェクトにより新たな住処を獲得した住民などにインタビューを行っている。政府がお金を出し、建築家が図面を引き、住民が自分達の手でレンガを運び住宅を建設する。SAALはセルフ・ビルドを原則としていた。年配の女性が両脇に大きなレンガの固まりを持った写真が目を引く。住民とSAALの間では活発な議論が交わされ、女性の発言力が住民運動の原動力となっていたこと、SAALは大きく3つの支部を持っていたが、イーリャ形式というポルトを中心とした北部都市独特の集住形態、そして政治思想のために、北部支部には他の地区にはない困難が存在していたことなどが明らかにされる。

「シザ・ヴィエイラの家に住んでいるんだ」と誇らしげに語る住民のシーンがある。幅の狭い階段には絨毯が敷かれ、窓枠は「性能の良いアルミサッシ」に付け替えられ、外壁には住民各々の「美意識」が表現されている。それでも、建築そのものはシザによるものだ、と彼は力説する。公平に見ても、平均よりは質の劣る公営住宅とは言え、ようやく手にしたマイホームは当事者にとっては宮殿のような存在なのである。

映画の終盤、シザによるボウサの集合住宅第二期の竣工記念式典の模様が映し出される。SAALプロジェクトが一つの区切りを見せたと思わせる場面である。その直後、リスボン郊外アマドーラの町で、解体される住宅を前に、カメラに向かって必死に不満を訴える住民達の姿が映し出される。「家」という物、そして「住む」という行為がいかに生々しいものであるかを眼前に突きつける作品だが、作者の住民に対する時折ユーモアを交えた暖かい眼差しがこのドキュメンタリーを優れたものにしているように思う。