01 September 2011

Typography


「Tradition is Innovation」という展覧会のタイトルは、もともとはシザの言葉、「Tradition is a challenge to innovation」に着想を得ている。正直に言えば、パートナーのゴンサロが、シザのこのフレーズを「Tradition is Innovation」と「うる覚え」していたために、このタイトルになったのであり、後で調べてみると、上記の通りもう少し長いフレーズであった。しかし、その、より短い「うる覚え」の言葉が、意外と味わい深く、二人とも気に入ってしまったのである。

展覧会のカタログ等のタイポグラフィは、僕よりも若いポルトガル人のグラフィック・デザイナー、ジョアン・マシャードが担当し、このタイトルについても彼の仕事の一部である。そこで彼は「Tradition」、「is」、「Innovation」という3つの単語を3行に分けて表現した。これにより、このフレーズをひと息に読んでしまうのではなく、一語一語、間にひと呼吸入れながら読むことになる。また、このタイトルを日本語に訳してしまうと、何とも雰囲気が崩れてしまうのだが、それは英語の「is」という単語の持つ、ほとんど「=(equal)」のような無機質な感じが、前後の単語をより際立たせているためであると僕は考えている。それを彼はうまく汲み取って3行に分けている。

実際に僕はタイトルの意味について彼に特別な説明をしたわけではなかったが、意図を汲み取り、さらにそれを強化するようなデザインを施したことになる。このごくシンプルなタイポグラフィにも凛とした主張があるのであり、コラボレーションすることの醍醐味を見た気がする。