09 September 2006

サンタンデールの怪しい宿

オビエドで宿を探すのに苦労したものだから、まだ3日間残された旅の今後を考えると気が重い。オビエドをバスで出発し、サンタンデールへ到着するまでの約3時間、宿探しに備えて熟睡する。もはや開き直るしかない。

午後6時過ぎ、サンタンデールのバスターミナルに到着。バスターミナルを出て早速宿探しを開始。まず最初に見つけたペンシオンのベルを押す。オビエドの経験から満員の場合はベルにすら応答しないことが分かっていたので、扉のカギがあっさりと開いたのに驚く。運良く1件目で部屋にありつけるという期待が高まる。そして愛想のいい女主人が一部屋空いていると言う。しかしペンシオンにしては宿泊料がちょっと高い。僕が迷っていると、少しの間キープしておいてくれるという。なんとも親切な宿だ。

そして他の宿を探しに出かけるためにそのペンシオンを出た途端、50前後の男が僕に話しかけてくる。

「宿を探しているのか?」

そうだ、と言うと、彼は無表情のまま、

「宿はあるぞ、プリバードだけどな。」

と言う。プリバード?と思うが値段を聞き、部屋を見せてくれと頼む。そして僕らはそのプリバード(要は個人宅なのだが)の宿へ向けて歩き出す。不安がないわけではなかったけれど、以前旅行したときにも同じようなことを経験していたし、何しろ宿を見てから決めればいいことだ。

「マリアさん」のお宅へ連れてこられた僕に、男はマリアさんを紹介し、ここがお前の部屋だ、と言って一室のとびらを開ける。そこはリビングルームでテレビやテーブル、その他の家具とともにベッドが置いてある。リビングに寝てください、というわけだ。この50前後の男がぶっきらぼうである以外は、マリアさんという女性も家も普通だし、宿代もさっきの約半分で済むし、この宿に泊まることにした。そこには2泊したのだが、いざ滞在し始めれば快適そのものだった。

マリアさんに連れて行ってもらったレストランも良かった。いかにも地元の人しか行かなそうな、お世辞にもきれいとは言えないそのレストランで僕は2日間とも夕食をとった。2日目の2皿目にコルデロ、子羊を注文したのだけれど、僕が食べ終わる頃、もう一皿食べるか?と言ってカマレロがこの日3皿目でもある2皿目のコルデロを運んでくる。気前の良さにうれしくなり、2皿目も食べてしまう。パンを食べたか、バターを使ったかなどと細かくチェックする隣国ポルトガルのレストランのことを思う。食事の満足度に対して値段が付けられている国と、食事の材料に対して値段が付けられている国との文化的差異、という風に言っておこう。

このレストランでは今まで見たことのないデザートにも出会った。僕が子羊の肉を2皿平らげた後、デザートにアロス・コン・レチェを頼んだ。すると、出てきたアロス・コン・レチェの表面が焼いてあるのだ。アロス・コン・レチェとクレマ・カタラナが同時に為されていることになる。そうか、こういうのもありなのか、と思いながら食べる。両方の良さがそのまま出ていて、文字通り2度おいしい。

スペインの食事には「おもしろい」という言葉がぴったりだ。ポルトガルのレストランのどこか「堅実な」食事に慣れていると余計にそう思う。アストゥリアス名物のシドラの注ぎ方もおもしろかった。頭の上から足元近くのグラスへ向けて勢いよく注ぐ。そうやって注がないとおいしくならない。ピンチョやタパスのシステムは食事の量や時間をうまく調節できて便利だ。

サンタンデールではかなり怪しい宿に泊まってしまったけれど、おかげでおいしい食事にありつくことができた。やっぱり宿は予約しない方がいいのかもしれない。