16 November 2005

カベサ・ド・ベント、旅立つ

今日、エリーゼはリスボンを後にした。ひとまず今日はパリへ。そこからマルティニック島へ。彼女の助けがなければ今の充実したリスボン生活はない。昨晩、「この家を紹介してくれてありがとう」って言ったら抱きついてきた。

「エリーゼはカベサ・ド・ベントなんだよ。」

と、アントニオが言っていたのを思い出した。「カベサ・ド・ベント」、文字通り訳せば「風の頭」。これはまあ何というか、頭の中をビュービューと風が吹いている様子を想像すれば、ひょっとしたら理解できるかもしれないけれど、つまりは、気まぐれ、計画性なし、感情的な性格のことを指して言うらしい。悪いことばかりのようだけど、これが彼女の魅力になっていると考えた方がいい。

「でも、一方で彼女は勘がいいんだ。」

とも、アントニオは言っていた。確か留学して3ヶ月目くらいの頃だったと思う。友人の家に夕食に招かれて、エリーゼに2度目に会ったときだった。彼女は僕に、「あなた、ここに残りたいんでしょう」とこっそりと話しかけてきた。「え?」としか僕は言えなかった。その頃、僕は少しはそういうことを考えていたかもしれない。でも、なかなか具体的に「リスボンにまた戻ってくる」ということを想像することはできていなかったと思う。彼女は僕も気づいていない自分の中にある考えをすっと読み取って、僕の前に取り出してみせたのである。そして今、僕はリスボンに戻ってきている。そんなことをアントニオに話したら、「まさに俺の言いたいのはそういうことなんだ。不思議な女なんだよなあ。」

「また会うわよね」と意外にもニコニコしながら彼女は旅立った。