20 February 2013

修士としての建築士

11月にETSAMでオモロガシオンを始めて4ヶ月が経過しようとしている。そのうち、1月は大学の試験期間中ということで、PFCH(Proyecto Fin de Carrera de Homologación、オモロガシオンの学生に履修が義務つけられる卒業制作)の講義はなく、実質まだ3ヶ月といったところだが、オモロガシオンやPFCHについていろいろと分かってきたことがあるので記しておきたい。

PFCHは、週に1回の講義があり、基本的には卒業制作の進捗状況を担当教官と話し合う、いわゆるエスキスチェックがメインである。当然ながら毎週見せるものがあるわけではなかったりするのだが、僕が履修しているPFCHの講義に関して言えば、他の学生のプロジェクトにも積極的に意見することが求められている。また、月に一回程度のペースで、建築家や構造設計者、設備設計者などのレクチャーも開催される。これらの講義にすべて出席する必要があるわけではないが、要は個人プレーに走って、自分のエスキスチェックの時にだけ講義に顔を出すのではなく、担当教官との密接なやりとりが求められている。考えてみれば、教育システムの異なる他国の学生を、たった一科目の履修で学位を認定するわけであるから、当然と言えば当然である。

PFCHは、最終的には10名程度の教授を前に口頭審査があるが、審査会は毎月行われている。設計を終え、担当教官からのゴーサインが出て始めて審査を受けることができる。A1パネル12枚程度、さらにA3のブックレットの提出が求められているようだ。日本の卒業制作と異なるのは、構造設計、設備設計についての実務レベルの設計図書が求められていることだ。とはいえ、構造や設備に関する詳細をのぞいた、いわゆる「造形的な」質にも審査の重点が置かれており、どちらかと言えば、後者が重要であるようだ。同僚の中には、「これはオモロガシオンの卒業制作だから、無難なものをそつなくまとめればいい」と流している学生もいるのだが、おそらくPFCHにはコンペをやるつもりで臨むべきではないかと個人的には考えている。なぜなら、審査会で自分のプロジェクトを正当化しなければならないし、思い入れのないものを正当化するのは難しいだろう。また、コンペをやるつもりで、少なくとも基本設計レベルの建築のアイディアを短期で集中してまとめなければ、ずるずると時間を貪っていくことになりかねない。現に、PFCHに2年以上かかっている学生がたくさんいるのである。

審査に無事合格すれば、建築士(Arquitecto)の資格を取得でき、以後正式に建築士として活動していくことができる。ところでこの「建築士」という資格は、実は「修士」に相当するものである。欧州内の高等教育制度の統一を目指すボローニャ・プロセスの過程で、スペインの大学において5〜6年の建築教育を終えた者には修士が与えられることになった。これまで、建築士は学士に相当するものであったが、4年制の大学で学士、その後の2年間の修士課程で修士を取得する日本の大学のシステムを考えてみれば、これは理にかなった制度改革と言えるだろう。したがって、スペイン国外で学士までしか取得していない者でも、このオモロガシオンによって、建築士の資格のみならず、修士の学位をも取得することができるのである(もっとも、スペイン国内において、修士という学位はあまり馴染みのあるものではなく、未だ社会的にそれほど認知されたものではないということは考慮しておくべきである)。スペイン大学教育の新旧の制度については、日本学生支援機構のウェブサイトにも詳しい説明が載っているので、そちらも参考にしてほしい。http://www.jasso.go.jp/study_a/oversea_info_18.html

また、この大学教育改革を機として、近年、スペインの各大学に「マスターコース」が乱立されているようである。中には名前ばかりの、つまり一般的な修士とはことなる「マスター」の授与されるコースもあるようである。これについては、吉村さんの地中海ブログに詳しく書かれているので、そちらを参考にしてほしい。http://blog.archiphoto.info/?eid=1170500