25 January 2013

カサ・デ・カンポ

僕が住んでいるラティーナ地区から北へ徒歩で10分ほど行ったところに、王宮がある。ソルやグラン・ビアなどの観光客の集まる中心地から見ると、王宮はその西側にある。中心地から歩いていくと王宮がちょうど「突き当たり」となっており、その向こうには崖があり、マンサナーレス川をはさんで広大なカサ・デ・カンポが広がっている。そこで王宮まで来た観光客は、北へ進んで再びグラン・ビアに合流するか、南へ向かってラティーナなどの旧市街地を目指すか、どちらかを選択することになる。

マドリードに住み始めてからずっと、いつかこの王宮の眼下に広がっているカサ・デ・カンポに行ってみようと思っていた。グーグル・マップで見ると、徒歩で10分程度の距離だ。もっとも、この公園は以前は王室の狩猟のための森であり、スペインで最大の都市公園と言われるだけあって、その時間ではせいぜい公園の入り口に辿り着く、ということだが。

ラティーナ地区からセゴビア通りを下っていくと、ほどなくマンサナーレス川に到着する。この川はマドリード市内を南北に縦断しており、川沿いはかなり長い距離にわたって親水公園として整備されている。南へ下っていけば、ドミニク・ペローの設計した歩道橋などもあり、整備にはかなりの予算が投入されている印象を受ける。カサ・デ・カンポが狩猟場であったころから、マンサナーレス川は市民の風景の一部であったはずで、それが現代になって重要な都市戦略の軸として再評価されているのだろう。

橋を渡ると、ついに公園の入り口に辿り着く。さすがに公園内を全て見て回れるわけではないので、とりあえず公園内にある湖を目指す。湖に着いてその周りを歩きながら、中心地の方を振り返る。生い茂った樹木の向こうに王宮や市内のビル群が見える。これまで「突き当たり」と思っていた場所の裏側から町を眺める。夕方に訪れたせいで、ちょうど夕日が王宮を照らしていて、それは心を揺さぶる美しい眺めである。そして、これまで王宮の裏側しか見ていなかったことに気がつき、これがこの町の正面なのではないかと思うのである。