11 November 2012

南米出身者の多いオモロガシオン

マドリード滞在の目的の一つは、学位認定の過程、オモロガシオンのためだ。日本の大学の卒業資格を、こちらスペインの大学のそれと同等との認定を受けることを目標とするのだが、僕のように日本で建築学科を卒業した場合、それはこちらでアルキテクト、建築家の資格を取得することを意味する。このオモロガシオン申請の過程については、以前このブログに記した。http://bomdialisboa.blogspot.com/2012/02/blog-post_25.html

このオモロガシオンが実際に大学でどのように進められているのか、今後もブログに記していこうと思う。

僕はこのオモロガシオンを行うために、マドリードのETSAMという学校を選んだ。ETSAMは、マドリード工科大学に属する建築学科で、アレハンドロ・デ・ラ・ソータをはじめとする、数多くの著名な建築家を輩出した伝統校だ。オモロガシオンを行う大学の選択は各自に委ねられており、僕はせっかくの機会なのでこのETSAMを選んでみた。

日本での展示や、家探し、引っ越しもあり、スタートしたのは実質11月からになった。僕はスペインの教育省より卒業設計(Proyecto Fin de Carrera、以下、PFC)の履修を条件とされ、その授業に出席している。このPFCは、全学生が最終学年に履修するのだが、オモロガシオンのPFCは、通常のPFCとは別にクラスが設けられている。また、通常のPFCではグループでリサーチなどをじっくりと行い、それから各自の設計提案に進むところ、オモロガシオンのPFCはよりシンプルである。PFC以前に行う「設計課題」のような課題設定である。具体的には、マドリードのフエンカラルという地区にある敷地に、中等教育のための学校を設計しなさい、というものである。グループリサーチのようなものはない。「学位認定」とは言え、すでに他国で学位を取得している者に対して、ある程度課題を簡略しているものと思われる。

この課題に対して、果たして1年もかかるのだろうかと思い、既にPFCを進めている他の学生に聞いてみた。ちなみに学生は、スペインの大学ゆえに、南米のスペイン語圏出身者が大部分を占めている(言うまでもないが、授業はスペイン語で行われる)。スペインの大学でのオモロガシオンは、南米出身者がヨーロッパでの仕事を手にするための足がかりとなっていると言えるだろう。彼らにPFCについて聞いてみたところ、予想に反した答えが返ってきた。PFCを終えるまでに2年くらいはかかる、と言うのである。1年はおろか、2年、である。スペインの大学で求められるレベルが相当に高いのか、それとも南米の大学教育のレベルが芳しくないのか。

指導教官は最初の授業において、合格したPFCのプロジェクトを見せてくれた。意匠設計を含め、構造設計、設備設計においても十分な検討が行われており、完成度も高い。要は実施設計のレベルまでプロジェクトを進める必要があるということだ。それを実際に仕事をしながら「片手間」で進めている学生にとっては2年くらいの時間が必要であったり、南米の大学を卒業後、実務を経ずにスペインでオモロガシオンに着手している学生にとっては難関となっている、というのが僕の予想するところである。

このPFCの最終審査会は年内に何度か開催され、数名の教授を相手に発表し、会議によって合否が決定される。

不景気の只中にあるスペインを目指す(自分を含めた)学生の動機は何なのか、悪況下における建築教育の意義は何なのか、思うところもいろいろある。今後、そういったことについても書いていきたいと思う。