08 November 2009

パウラ・レゴ美術館


カスカイスにソウト・デ・モウラ設計のパウラ・レゴ美術館を見に行く。ポルトガルの世界的な画家、パウラ・レゴの半生を辿る美術館である。夏以来、久しぶりに見た海は秋になり閑散としているが、カスカイス線の電車から眺めるテージョ川河口から海へとつながる風景はいつ見ても飽きない。海を見るのも久しぶりだったけれど、カスカイスを訪れるのもかなり久しぶりだった。ヴィラやパラシオが点在し、緑の多いカスカイスの町は歩いていて気持ちがいい。アルガルベ地方の乱開発されたリゾート地とは異なり、昔ながらの「避暑地」という雰囲気が未だにある。

そのカスカイスの町中を通り抜け、海岸線を歩いて行きながら、パウラ・レゴ美術館はどんな感じだろうと考える。ある建物を訪ねるとき、それが駅やバス停から離れている場合など、目的地までしばらく歩いて行くことになる。その過程でその町の雰囲気を感じ取る。僕はこれは建物の立っているコンテクストを理解するという意味で非常に意義のある時間だと思う。アルマダの「青の劇場」を訪ねるまでの間に、アルマダという町の殺伐とした郊外の雰囲気を感じ取るし、ブルーダー・クラウス野外礼拝堂を訪ねるまでの間に、いやという程の田園風景を目の当たりにする。その過程を経て、写真だけでは腑に落ちなかった点に大いに納得する場合があるのである。もちろんその逆の場合もある。

パウラ・レゴの作品は、その表情や体つきを正確に描写したポルトガル人女性と時折登場する動物たちの組み合わせが特徴的だが、それが近年の作風であるということがこの美術感に行けば分かる。彼女の一生を辿ることができるように一筆書きに展示空間が配置されている。そしてそれに取り囲まれるようにして、やや大きめの企画展示室がある。常設展示室を辿って行くと、時折中庭の風景などが見えるようになっている。

美術館まで行く途中、僕はこの美術館は想像しているよりも小さいのではないかと思い始めていたが、実際にはその想像と写真で初めて見たときの印象の中間であった。あの2つの煙突屋根がどういう空間なのかに興味があった。それは建物の外観を特徴付けていたし、内部も何かしらの仕掛けが為されているに違いないと思うからだ。しかし、この煙突空間に関しては期待はずれであった。この煙突空間は展示空間とは全く関係を持たない切り離された空間であり、2つの煙突屋根の下にはそれぞれカフェテリアとミュージアムショップがある。カフェテリアに関しては一度中庭に出てからそこへ入るため、せっかくの大空間もそれほどインパクトを与えることができていない。そこが残念な点ではあるが、コンパクトに機能がまとめられている点は良いと思う。