08 May 2011

ランドスケープと絵画

「グルベンキアン・コレクションを通して見る庭園、風景に関する芸術の歴史」というタイトルのガイドツアーに参加する。僕にとって、いくらかの興味をそそるタイトルであったのは間違いないが、これをレクチャーするのが同僚でもあるランドスケープ・アーキテクトのヴィトールであるということが、参加した直接の理由だ。

初回である今回は手始めとして、15、16世紀の絵画を題材に、どのようにして「風景」という概念が現れてきたか、ということについてヴィトールは概説する。ヨーロッパ南部では、ポルトガル語のpaisagemに近い単語が、それより北の方では英語のlandscapeに近い単語が、この「風景」という概念について用いられるが、そもそもこれらの単語の語源は異なる。オランダでは風景画を専門とする画家が存在し、職能としてあるアングルで土地を切り取るという意味での「landscape」が誕生したのに対して、「paisagem」には「農風景」という意味があった。「風景」とは本来、農作業の場を何の意図も持たずに眺めたもの、あるいは手入れされた「庭園」との対として危険で粗野な土地のことを指していた。それを示すのに、オランダの画家ディルク・ボウツが描いた「受胎告知」の絵でヴィトールは説明する。(作品はこちら

左手にレンガで遮られた「庭」が見えるのに対し、中央の窓の奥には外の「風景」が見えている。この時代が「風景」というものが絵画に取り入れられた、つまり人間に意識をもって知覚された初期にあたる。それでもなお、この時代の風景の表現の仕方は樹木をスタンプで押したようなシンボリックなものが多いという。

次回は、フランス庭園と絵画について。