担当しているリベルダーデ大通り沿いの改修プロジェクトの建築許可申請にリスボン市役所へ行く。整理券を取って、ベンチに座って待つ。しばらくして、自分の番号が呼ばれて市役所の建築家に面会する。ちょっとお腹の出た、40前後の生真面目そうな彼のデスクの前に腰を下ろすと、
「以前、ここに来たことありますよね。」
とぼそっと言われる。あまりにも小声だったので、僕は一瞬聞き直して、
「いや、ないです。」
と答える。実際には4年前くらいに論文の資料集めに訪れたことがあったけれど、そんなに昔のことを覚えているはずもないだろうと思って、そう答える。彼は僕が持って来た書類に目を通しながら、「カヒーリョ・ダ・グラサですか」とまたぼそっとつぶやく。そしてにやりとして、
「P-06のパーティにいましたか?」
と聞かれて、僕は、「あっ」と心の中で叫ぶ。P-06というのは、うちの事務所と恊働しているグラフィック・デザイナーの事務所だ。でもなぜ彼がこんなところに、、、。僕の頭の中は混乱する。なぜなら彼はポルトガルのテレビやラジオで活躍する有名なディスクジョッキーだからだ。パーティの日、彼はディスクジョッキーとして音楽をかけたり、得意のトークでパーティを盛り上げていた。まさか本業が市役所の都市計画課に勤務する建築家とは想像できるはずがない。
しかし、彼はラジオのパーソナリティらしくなく、黙々と書類や図面に目を通す。
「解体予定の建物のコンパートメントにも、部屋名と面積を記してください。プロジェクトの説明文に「商業用途建物専用地区」という単語を入れておいてください。DWFファイルは確認したところ問題ありません。あと、全ての書類にアーキテクトのサインが必要です。」
彼はまさに役人らしく、冷静に問題点を指摘して、書類を僕に返す。今日は書類は受理されなかったわけだけれど、何とも不思議な感じのする面会だった。